「21g」

「21グラム」

 「命が消えるそのときに、人は21グラムだけ軽くなる」
このキャッチコピーはあまり劇の内容とは関係なかったが、
久々に見た秀作、メキシコの若い監督「アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ」の作品。

形式的には、「めぐり逢う時間たち」のフラッシュバックと、「ミスティック・リバー」のモラル
を感じさせるが、内容は似て非なる傑作、主演のショーン・ペンもこちらのほうが良い。
がしかし個人的に感心したのはベニチオ・デル・トロ、前科のあるエクセントリックな役を
実にリアルに演じていて、彼ってこんな名優だったかしらと驚くほど素晴らしかった。

例によって上映中の作品なのでストーリーには触れないけれど、
「ミスティック」には希薄でこの映画に溢れていたのは、アメリカの地方都市の
所謂プア・ホワイトの生活、食べたり呑んだり歌ったり子供を叱ったり、
特にアルコール依存症のジャックが狂信的なまで教会に縋る場面では
ハードボイルド小説「800万の死に様」のアル中探偵「マット・スカダー」を思い浮かべた。
まさしく普通のアメリカ人の生活、生き方、死に方がここにはある。

気になって撮影場所を調べてみたら「メンフィス」、
監督がこだわってここしかないと決めたという。
神を信じるという行為に裏切られ絶望的な中に、ラストで微かに希望が感じられ
何とか生きて行ってほしいと願わずにはいられない結末だった。

しかしこの監督の撮った普通の映画も見てみたいと正直な感想。